西島建男歌集6

西島建男歌集6 

 

 

201   ほととぎす庭で鳴く聞けば

         亡き君へ便り届けと

          喋りまくりぬ

 

202  夜桜のトンネルくぐれば

       放射能の国境閉じ

         幾十年たつ

 

203  藤棚に首を吊りたれ下がりたし

       ガンの痛み消え

        紫に輝く

 

204  照明で夜桜恥ずかし

      しみ見えて月化粧消え

        陰翳なき裸なり

 

205   妻の声「まだ生きてるの」

        夢で抱き汗ふき起きて

         這うクモを逃がす

 

206   日傘さし乳母車に息子のせ

        そよと馬事公苑歩く

         妻をふっと思う

 

207  死んだ後あの世の次の世

      存在す妻見つからずば

        次の次追いかける

 

208  雑草を抜き洗濯もの干せば

       急に世界は

         白く消え倒れ

 

209  菜種梅雨カラスの糞は

        白い花カオリバンマツリ

          紫が白になる

 

210  船傾きセイレーンの声

       つややかに深海の誘い

         我溶け込み行く

 

211  ネペンテの霊薬飲みたし

       忘却の河渡りて

         失う時なし

 

212  暗闇に香り交差し

      モクレンの肌触れれば

        君は匂い鳥飛ぶ

 

213 民謡に「枯れて落ちても二人ずれ」

      一葉落ちて独り

         老幹を触りぬ

 

214  年老いて炊事洗濯無知の山

       トイレ雑草抜き

        猫まずさ嗤う

 

215  セックスは獣の格好

        愛の実を笑って女は

         不快さでにらむ

       

216  年老いて明日がない

       命短し攻めよ今日がある

         夢は次世界を見る

 

217  胡蝶蘭かすかに鳴れり

       光りの音電位変化の

         アルトフルート

 

218  五月の夜雨の木流す水滴よ

       地球のマグマに

        囁きかけり

 

219  死の待機終末ホスピス求つつ

       行列し朝焼け

        開店まだ来ず

 

220   宇宙線我がからだ貫き

        ミューオン光速落ちて

          消えず命延び

 

221  蜂来たり花挨拶で首たれ

       接吻を受け

        うっとりねっとり

 

222  採血室は常に満員なり

       アマゾンのジャガーは血飲み

        醗酵酒に酔う

 

223 次々とヨブのごとし苦難来る

       耐えても老後は

         鯨の腹の中

 

224  三陸の水底深く光る月

       子の幸せ願う

        遺体の夢映る

 

225  阿蘇の月大橋渡れば

       地鳴り父母の声かすかに

         若者は土に溶ける

 

226  警察はストカーが狙う

         女性をば救えず

      テロ防止に熱中す

 

227  沖縄のレイプ女性を

         政権は救えず

          基地維持に熱中す

 

228   棺桶に三本の指かけ入ろうと

          背後から多数の

         海棠の花引き止めぬ

 

229   リヒテルシューマン幻想曲

        聴けばラインの川底に

            命突き刺さりおり

 

230  フォーレのレクイエム聴けば

         青空の断崖を

           静かに滑落す

 

231   我が庭のドクダミの花

         白き不妊地下茎の力で

           妻の無念はらす