西島建男歌集4
西島建男歌集4
西島建男歌集4
79 伊豆山に妻を喪くして
来てみれば
千人風呂なく砂浜もなし
80 波響き息子と入る露天風呂
水平の雲に
生き延びし我を見ゆ
81 夏の夜に八岐大蛇襲い来て
万華の花火
降り注ぎ来たり
82 誘うよう抱きしめ迫る
波のうねり
巨大なる生きた羊水の動き
83 初島とにらめっこする
苦虫のテトラポット
笑う波追い立て
84 錦ヶ浦自殺の名所も
庭園に変じ聳えるホテル
岩壁も緑に
85 雨月の夜物語ひも解けば
愛憎の蝶
胸を乱舞す
86 運河よどみ洗濯物垂れ
ヴェニスにゴンドラ滑り
妻月光に浮かびぬ
87 十二桁数字に化した
データの身を
蚊がまずそうに盗み吸うなり
88 アホウドリ滅びぬ離島で
知のコピー鳥
ドローン人喰らう
89 空き家増え
妖怪と猫住み
マンション傾き人々衰えぬ
90 核ミサイル巨根の露出の
パレードよ
終末戦の秋黒い雨降る
91 核のゴミ黒き袋は
放置されカラスもとまらず
大水に漂う
92 更地捨て
かさ上げされた新地あり
消えた廃墟は記憶薄れゆく
93 潮風に恋人抱き合い
汽笛鳴り
地下の震災の瓦礫うずく
94 つかのまの
前生と後世の端境期
柿の実熟し小鳥ついばむ
95 なぜ燃える散り枯れる前に紅葉の火
溶岩流れ枯れて
黒い岩捨てられ
96 (芭蕉に捧ぐ2首)
秋深し組体操崩れ
隣の子骨折せり
ああ運動会
97 夏草やしゃれこうべ白し
兵士夢も見ず
地雷生き続けぬ
98 秋空に楕円のボール放物描き
高きポールの間
刃で切り裂く
99 一億の総活躍に入らぬ我
虫の死骸運ぶ
アリをじっと見っめぬ
100 爆撃でふるさと喪い砂ぼこり
閉め出す異国へ
歩き歩きゆく
101 早死し沖縄の友よ吾苦し
珊瑚レイプされ
海ひかり埋められ
102 わが首相原子空母に乗りはしゃぐ海
核地下水で
不機嫌なり波
103 いくさ時に
文学部無用と廃されりいままた
「明暗」読み心暗き
104 東大の軍事研究
資金もらいジキルハイドの科学
ひと悩ます
105 みじんぎり涙出ぬタマネギの
苦しみ身に染む
情なき秋風
106 歌出来ず一年二回の大手術
尿もお通じも
107 お尻無し縫い合わされて
サイボーグ
朝焼け富士窓から迫る
108 痛みよりかゆみの方が
つらしという看護師見ながら
痛み止め飲む
109 老い枯れず元気な吾に
ガン喜びぬ
増殖出来るぞ
110 高熱の手術過ぎて
そよぐみどり
抹茶アイスの宇治の山風
111 妻が死し病院ベットで
手術後に妻の代わりに
少女の夢見る
112 遠くを見る純なひとみの
テロリスト人を殺して
理想は濁らざるや
113 病床で007吾なりぬ
追いかけられて
雪渓を一つ飛び
114 岩レンゲ家族を愛する花言葉
絶滅しそうでへばりつく
115 ボジョレでなく抗生剤で乾杯を
誕生チョコは10錠の
痛み止め
116 凍れる夜歯から爪まで
震え出す敗血症の
細菌雪崩れ
117 病には連休なしか
細菌は残業までして
お前はブラック企業
118 サーフィンタンゴの波は
ひるがえり砂地は地球
白菊乱れ飛ぶ
119 わが庭の柿の実
息子もぎ取って
退院出来ぬ失いし時喰う
120 雨の夜尾灯・信号赤なみだ
病窓燃え
血はルージュ引きぬ
121 死の夢覚めれば山茶花
ひらひら
生の夢覚めれば椿どさどさ
122 回転し重力遁れジャンプする
氷上のコマ
寝たきりで見る
123 白き鳥朝日浴びて羽キラキラと
固まりて飛ぶ見
癒える予感す
124 光熱費見ながら我も加担者と
北極クマに
頭下げたり
125 氷河融け地球の涙
島沈み土のひび割れ
聞こえるうめき
126 総持寺の青銅の屋根夕日光り
異世界に向かう
離陸の手振る
127 悔いは無し
奇跡の君とめぐり合い
未知の世界巡り愛憎に激しても
128 病床で愛した記憶女性の顔
わきいずれば
微熱でうなされたり
129 朝日あび高層ビルの屋上に
バニラアイスの
富士山のれり
130 秋の月まだ生きている我が命
病室で聞く
かすかな叫び
131 山の神神野大地名前よし
骨折乗り越え噴火を
抑え走る
132 福袋爆買い嬉し新年の
命永らえ
痛みしばし消ゆ
133 エビカニの天ぷら蕎麦
すすりけり猿になり
見えぬ枝に飛びうっりたり
134 SMAPは一つだけの花になりきれず
自立し
崖に咲く百合になれ
135 お雑煮をつくる息子は
亡き妻の味と同じにと
ちがうもうまし
135 名古屋へと単身赴任する息子に
先の尖った
牛革靴贈りぬ
136 冬の夜半ドヴォルザークの
チェロの音に
穏やかな死祈り夢に落つ
137 短歌とは57577素数なり
自己しか約せず
暗号を解け
天皇の慰霊
九条の夢の旅
139 佐渡の海
我が上司消えぬ船中から
妻の詐欺の罪つぐない悲し
140 天皇の慰霊の旅に
戦没者戦争しない国の
白菊に笑む