西島建男歌集7
232 首相よ苦難に立ち向かい逃げるな
富裕税を作り
福祉弱者を救え
233 宿泊所で孤老がひっそり死ぬ
税金を贅沢に使う
政治家は自腹で
234 公正中立 第三者とは自己ごまかし
権力者のポチは
電柱に小便もせぬ
235 嘘つきの仮面の詐欺師
危機をあおり安保から経済不況
党利党略のため
236 増えるのは軍事研究 防衛費
平和国家が
欺瞞国家に
237 警察はパトカー追跡は「適正」と
適正によって
無辜の民独り死す
238 偽女権安倍家父長に尻尾ふり
靖国の桜に
散華する母
239 秘密さえ秘密になる花園よ
政府官僚よ
どの秘密花切り捨てる
240 年金の天引き増えて菜種梅雨
介護市民税貧者には
タックスヘブンは無きか
241 紫陽花の唇描き亡き君の
キスなき歳月を
夢中で吸いたり
242 水鳥の水底飛ぶ光の速さ
我は流れて
岩の苔になる
243 予感して今月か来月かガンで死す
亡き妻の顔
赤き牡丹で迫る
244 医療では「不適切」な処置は命失う
政治家は豊かな
暮らしで団欒す
245 政治家も選挙も無き桃源郷
紫陽花ほほえみ
民平安に暮らす
246 着物誘い袖から手入れ
乳房触る粉ぬか雨のような
かすかな音聞えぬ
247 朝かと思い午前三時に起き
寂しさに月の庭さ迷えば
新聞来る
248 政治家を全廃せよ税金を
孤老貧困子どに
市民管理で
249 なめくじがモネの画集に
寝そべりゆったりのんびり
絵をなめつくす
大の字に鼾をかきて
活字は白紙に
251 ナスの苗薄むらさきの花さけり
死ぬ前に茄子の
味噌汁飲めるか
252 買物にいけなくなる日寸前なり
杖つきはって
デパ地下にいかん
253 医者はいうもう治療法なしと
医療麻薬で
自由にさまよう
254 絶望せず希望もぜずに我がさだめ
ただ祈るのみ
庭石を磨く
255 祈るのは神でも天でもありえない
存在する我に
山茶花に祈る
256 天国か医療麻薬飲み痛み消え
海鮮焼きそば食べ
抹茶ゼリー旨し
257 予報士は狼少女コピー機なのに
脅しの名人
竜巻、土砂、豪雨
258 NHKニュース気象庁のいうままに
政治社会批判よりも
天候なら一致す
259 梅雨ただよいトルコ桔梗の青き縁
白き花眼鏡
好きだった亡き君見よ
260 梅雨の朝尿瓶を流し心去り
しとしと雨が
頻尿を誘う
261 本当なし嘘ばかり語り支持をえる
政治家も同じ
262 戦争中前進あるのみと
兵死に行く立ち止まりて
過去から学べ
263 英国は自己中心の島国なり
日本も同じ
世界が見えない
264 フォーレのレクイエム聴けば
豊かな死漂い
キュウリの黄色の小花に触れぬ
265 苦しくて妻の名呼べば
遠雷の梅雨の雨に
響きけり
266 幸福の木この10年花咲かず
肥料やっても
枝伸びるだけ
267 おむつ変え尿パット変えて
ガーゼを変えて夜寝られず
ガードマン忙し
268 ラブ来てわが門前で
おしっこし尾を3回振り
静かに去り行く
269 石井アナスポーツ報道よりサポーター
自分好みの選手を
「ファミリー」にする
270 スポーツの客観報道を自国の選手
だけのナショナルな
ナルシスゲーム
271 青空に軽やかに飛ぶ我が存在
鳳仙花のようさよなら
ふわふわさらさら
272 裏切られ悲しみが塀の上
つるバラがぐんぐん伸びて
止めを知らず
273 真夜中に自分のからだ
かたまりに他人の意識で
少し浮きたり
274 茄子たれてトマトうす赤く
鉢植えに雨かすかに濡れ
アンダンテのいのち
275 ほろほろと才能のなさの
悲哀鳥
薔薇門前に散り涙まじりぬ
276 月笑う才能のなさを蟻運ぶ
嫉妬の死体
脹らみふくらみ
277 蜘蛛の巣は喜び飛びかり餌を喰う
嫉妬汁には
酔いかす
西島建男歌集6
西島建男歌集6
201 ほととぎす庭で鳴く聞けば
亡き君へ便り届けと
喋りまくりぬ
202 夜桜のトンネルくぐれば
放射能の国境閉じ
幾十年たつ
203 藤棚に首を吊りたれ下がりたし
ガンの痛み消え
紫に輝く
204 照明で夜桜恥ずかし
しみ見えて月化粧消え
陰翳なき裸なり
205 妻の声「まだ生きてるの」
夢で抱き汗ふき起きて
這うクモを逃がす
206 日傘さし乳母車に息子のせ
そよと馬事公苑歩く
妻をふっと思う
207 死んだ後あの世の次の世
存在す妻見つからずば
次の次追いかける
208 雑草を抜き洗濯もの干せば
急に世界は
白く消え倒れ
209 菜種梅雨カラスの糞は
白い花カオリバンマツリ
紫が白になる
210 船傾きセイレーンの声
つややかに深海の誘い
我溶け込み行く
211 ネペンテの霊薬飲みたし
忘却の河渡りて
失う時なし
212 暗闇に香り交差し
モクレンの肌触れれば
君は匂い鳥飛ぶ
213 民謡に「枯れて落ちても二人ずれ」
一葉落ちて独り
老幹を触りぬ
214 年老いて炊事洗濯無知の山
トイレ雑草抜き
猫まずさ嗤う
215 セックスは獣の格好
愛の実を笑って女は
不快さでにらむ
216 年老いて明日がない
命短し攻めよ今日がある
夢は次世界を見る
217 胡蝶蘭かすかに鳴れり
光りの音電位変化の
アルトフルート
218 五月の夜雨の木流す水滴よ
地球のマグマに
囁きかけり
219 死の待機終末ホスピス求つつ
行列し朝焼け
開店まだ来ず
220 宇宙線我がからだ貫き
ミューオン光速落ちて
消えず命延び
221 蜂来たり花挨拶で首たれ
接吻を受け
うっとりねっとり
222 採血室は常に満員なり
アマゾンのジャガーは血飲み
醗酵酒に酔う
223 次々とヨブのごとし苦難来る
耐えても老後は
鯨の腹の中
224 三陸の水底深く光る月
子の幸せ願う
遺体の夢映る
225 阿蘇の月大橋渡れば
地鳴り父母の声かすかに
若者は土に溶ける
226 警察はストカーが狙う
女性をば救えず
テロ防止に熱中す
227 沖縄のレイプ女性を
政権は救えず
基地維持に熱中す
228 棺桶に三本の指かけ入ろうと
背後から多数の
海棠の花引き止めぬ
聴けばラインの川底に
命突き刺さりおり
230 フォーレのレクイエム聴けば
青空の断崖を
静かに滑落す
231 我が庭のドクダミの花
白き不妊地下茎の力で
妻の無念はらす
西島建男歌集5
西島建男歌集5
141 五年たつ津波でいたむ
ランドセル引き取りてなく
炉で火となりぬ
142 死のヴェールめくれば
永久の雪原に光り満ち
ペンギン転びぬ
143 身障の赤き手帳を
受け取りぬ
塀のすき間にタチアオイ咲く
144 愛感じず死んで初めて
妻への愛幻想から飛び
現実になりぬ
145 人の妻
白き素足のサンダルばき
盗み見した青春のふるえ
146 (戦争幻景歌6首)
(1) 子ども盾ジリジリと兵は近寄りぬ
撃つか撃たぬか
白き指引きつりぬ
147 (2) 車通れば仕掛け爆弾
破裂しぬ
手足空に飛び内臓塩辛に
147 (3) 狙撃兵照準定め
黒髪の頭を撃てば
記者ほほえみて無し
148 (4) 病院も学校も
地図の図形かボタン押せば
空白のしみ
149 (5) 首斬れば橙色の罪衣
紫の砂
無言で沈み行く
150 (6) ロック響き
銃撃の音リズムになり
倒れし人はテロの血ドラム
151 押入を開ければシールびっしりと
幼児の息子
ガンダムで飛びだす
152 亡き妻の
ピアノ弾く音に彷徨いぬ
酔いどれは森の沼の彼方に
白き石壁を
民族の血赤く
154 寺小屋でわが子の首を検分し
泣けずに泣けし
いじめいけにえ
155 拉致されしわが子追って
北の海白く
冬の花火消ゆ
156 四回目ガン手術戦場か
わが明日は白いもや
勇気高ぶる
157 猫うなり腸凍る夜
人工の肛門軽く
うすものの生寒し
158 あじさいの若角生きよと
勢いあり
ヤッデの小粒の花は鬼ごっこ
159 戦争のつもりになって幻想し
落語「だくだく」
歌に血が出た
160 亡き君のワンピース
くるまりて涙
背のホクロ触る
161 わが身体無数の
注射針のあと
母の遺体思い浮かべぬ
162 白き乳首吸いめくるめく
富士の張り
シュークリームの甘さとろけり
163 ランの花冬の厳しさ生き残り
偶然のごとく
薄紫あり
164 おやじテロで刺され助けられず
夢見たと息子よ逃げよ
我は立ち向かいぬ
165 死んで生き行きて帰りぬ
登りて降り永劫回帰
桜咲き散りぬ
166 検査見て余命半年と
驚かずうなぎ蒲焼食べ
涙流れる
167 肝臓に三ヶ所のしみあり
増殖の速さ
新幹線競う
168 ペゴニアは
きいろみどりあかむらさきと
桜散れば爆笑し合う
169 骨白し隣に座れば
言葉なし雪はワルツ踊り
墓うす化粧す
170 骨壷のとなりに座れば
君笑うおまたせしたと
我も微笑む
171 桜の木落下傘になり
病室飛びて公園で遊ぶ園児に
花びらまけり
172 鶴見川五本の桜
呑み込みてボートは小魚
花は擬餌食らいつく
173 妻死し夜子猫
玄関屋根の上
星に向かいて呪文となえり
174 抱き倒れベット軋みシーツしわ
隣気にして
口にバター含みぬ
175 手術して解剖学の教科書と
違う血管と聞こえる
我は何者
176 桜花世界の破れた穴ぼこへ
流れてゆけば
溺れ消えぬ
177 日光に柿の若葉に梅新芽
がん細胞を
包めよみどりに
178 知りたやな鹿の心を
軽やかにいま草山跳び
穏やかに死ぬ
179 竹やぶが動く黒い風
泊まらないと誘う
鬼女から逃れぬ
180 墨塗りの教科書開き
学びし時TTPの
文書見て戻る
181 死んだならオリオンには行かず
ふたご座の流星群で
放散し飛び散る
182 ルビー燃えさそりの心アンテルス
嫉妬の毒もち
オリオン追い出す
183 さよならを大桟橋から空に投げ
涙は波に
青き音滑る
184 薬漬け若葉芽吹き
手足しびれ髪抜け落ちて
生明るく見ゆ
185 朝焼けを録音したら食べる風
夕焼けを録画したら
泣く光りの音
186 永遠の声天から響く
岩砂漠に憐れみ救い
刻みたれたり
187 兼好が下賎な魚を食すと書く
鎌倉で美味し
初鰹たべ
188 つつじ咲くガンセンターで定年前
ペン折し友と
飲みたい夕闇
189 熱情で大地動き
家潰れ土砂怒る
わがさだめの島
190 恋しくてつつじの赤花
点滅し合図送れど
抱くは白い風
191 蛇うねり六角橋の商店街
屋台でちくわ咥え
辞任を決意す
192 十条の商店街の鶏ボール
頬張り劇見て
殺陣に狂いぬ
193 足踏んだカネよこせと脅す
少年の目
寂寥の影
194 チンピラに追いかけられ
電柱に登りてミンミンと
鳴けば馬鹿かと笑い去る
195 モクレンの香り舌刺し
口吸えば月の歯光り
椿の実硬し
196 病みほうけ電線見れば
ムクドリが流星群のごと
嬉々と飛び立つ
197 若冲見れば赤とさか
にわとりが黄のひまわりに
見得切りいいよる
198 梅雨に濡れ渋谷ラブホ前
不倫揺れ紫陽花の色が
変わり別れぬ
199 つるばらの白露の花は
踊り狂い宴の後は
地に吸い込まれぬ
200 ゼラニウム紅花はとさか羽みどり
庭を競歩で
せわしく去りゆく
西島建男歌集4
西島建男歌集4
西島建男歌集4
79 伊豆山に妻を喪くして
来てみれば
千人風呂なく砂浜もなし
80 波響き息子と入る露天風呂
水平の雲に
生き延びし我を見ゆ
81 夏の夜に八岐大蛇襲い来て
万華の花火
降り注ぎ来たり
82 誘うよう抱きしめ迫る
波のうねり
巨大なる生きた羊水の動き
83 初島とにらめっこする
苦虫のテトラポット
笑う波追い立て
84 錦ヶ浦自殺の名所も
庭園に変じ聳えるホテル
岩壁も緑に
85 雨月の夜物語ひも解けば
愛憎の蝶
胸を乱舞す
86 運河よどみ洗濯物垂れ
ヴェニスにゴンドラ滑り
妻月光に浮かびぬ
87 十二桁数字に化した
データの身を
蚊がまずそうに盗み吸うなり
88 アホウドリ滅びぬ離島で
知のコピー鳥
ドローン人喰らう
89 空き家増え
妖怪と猫住み
マンション傾き人々衰えぬ
90 核ミサイル巨根の露出の
パレードよ
終末戦の秋黒い雨降る
91 核のゴミ黒き袋は
放置されカラスもとまらず
大水に漂う
92 更地捨て
かさ上げされた新地あり
消えた廃墟は記憶薄れゆく
93 潮風に恋人抱き合い
汽笛鳴り
地下の震災の瓦礫うずく
94 つかのまの
前生と後世の端境期
柿の実熟し小鳥ついばむ
95 なぜ燃える散り枯れる前に紅葉の火
溶岩流れ枯れて
黒い岩捨てられ
96 (芭蕉に捧ぐ2首)
秋深し組体操崩れ
隣の子骨折せり
ああ運動会
97 夏草やしゃれこうべ白し
兵士夢も見ず
地雷生き続けぬ
98 秋空に楕円のボール放物描き
高きポールの間
刃で切り裂く
99 一億の総活躍に入らぬ我
虫の死骸運ぶ
アリをじっと見っめぬ
100 爆撃でふるさと喪い砂ぼこり
閉め出す異国へ
歩き歩きゆく
101 早死し沖縄の友よ吾苦し
珊瑚レイプされ
海ひかり埋められ
102 わが首相原子空母に乗りはしゃぐ海
核地下水で
不機嫌なり波
103 いくさ時に
文学部無用と廃されりいままた
「明暗」読み心暗き
104 東大の軍事研究
資金もらいジキルハイドの科学
ひと悩ます
105 みじんぎり涙出ぬタマネギの
苦しみ身に染む
情なき秋風
106 歌出来ず一年二回の大手術
尿もお通じも
107 お尻無し縫い合わされて
サイボーグ
朝焼け富士窓から迫る
108 痛みよりかゆみの方が
つらしという看護師見ながら
痛み止め飲む
109 老い枯れず元気な吾に
ガン喜びぬ
増殖出来るぞ
110 高熱の手術過ぎて
そよぐみどり
抹茶アイスの宇治の山風
111 妻が死し病院ベットで
手術後に妻の代わりに
少女の夢見る
112 遠くを見る純なひとみの
テロリスト人を殺して
理想は濁らざるや
113 病床で007吾なりぬ
追いかけられて
雪渓を一つ飛び
114 岩レンゲ家族を愛する花言葉
絶滅しそうでへばりつく
115 ボジョレでなく抗生剤で乾杯を
誕生チョコは10錠の
痛み止め
116 凍れる夜歯から爪まで
震え出す敗血症の
細菌雪崩れ
117 病には連休なしか
細菌は残業までして
お前はブラック企業
118 サーフィンタンゴの波は
ひるがえり砂地は地球
白菊乱れ飛ぶ
119 わが庭の柿の実
息子もぎ取って
退院出来ぬ失いし時喰う
120 雨の夜尾灯・信号赤なみだ
病窓燃え
血はルージュ引きぬ
121 死の夢覚めれば山茶花
ひらひら
生の夢覚めれば椿どさどさ
122 回転し重力遁れジャンプする
氷上のコマ
寝たきりで見る
123 白き鳥朝日浴びて羽キラキラと
固まりて飛ぶ見
癒える予感す
124 光熱費見ながら我も加担者と
北極クマに
頭下げたり
125 氷河融け地球の涙
島沈み土のひび割れ
聞こえるうめき
126 総持寺の青銅の屋根夕日光り
異世界に向かう
離陸の手振る
127 悔いは無し
奇跡の君とめぐり合い
未知の世界巡り愛憎に激しても
128 病床で愛した記憶女性の顔
わきいずれば
微熱でうなされたり
129 朝日あび高層ビルの屋上に
バニラアイスの
富士山のれり
130 秋の月まだ生きている我が命
病室で聞く
かすかな叫び
131 山の神神野大地名前よし
骨折乗り越え噴火を
抑え走る
132 福袋爆買い嬉し新年の
命永らえ
痛みしばし消ゆ
133 エビカニの天ぷら蕎麦
すすりけり猿になり
見えぬ枝に飛びうっりたり
134 SMAPは一つだけの花になりきれず
自立し
崖に咲く百合になれ
135 お雑煮をつくる息子は
亡き妻の味と同じにと
ちがうもうまし
135 名古屋へと単身赴任する息子に
先の尖った
牛革靴贈りぬ
136 冬の夜半ドヴォルザークの
チェロの音に
穏やかな死祈り夢に落つ
137 短歌とは57577素数なり
自己しか約せず
暗号を解け
天皇の慰霊
九条の夢の旅
139 佐渡の海
我が上司消えぬ船中から
妻の詐欺の罪つぐない悲し
140 天皇の慰霊の旅に
戦没者戦争しない国の
白菊に笑む
西島建男歌集3
西島建男歌集3
67 鬼灯に雷雨打ちつけ
赤深み光刺されば
妻のまぼろし
68 担架から夏の青空透き遠く
サイレン光り
いのち雲に混じる
69 読書こそ我が抗がん剤わくわくと
活字の点滴
百日草咲く
70 腹の傷切腹の痕何回も
へなちょこ武士の
涙の流れ跡
71 そよ風とワルツ踊れば
絹の靴なでしこのリズムで
宙を滑りぬ
72 薔薇窓のマリアの光
君の瞳にウインクした
サントシャペルよ
73 岩山に刳り抜かれたる修道院
坂を登れば
猫寝そべりおり
74 金閣寺粉砂糖の雪降りかかり
君の睫毛にも
金閣隠れぬ
75 さんさんと樹のみどり降る湖水に
老いた白鳥
憂いてたゆたう
76 老馬ゆく競馬引退しとぼとぼと
かつてのこころざし
いま何処にありや
77 伊万里皿白地に藍の唐草に
カツオの赤身の
花すずやかに
78 デパ地下で大えびのフライ
一尾買い仏壇の前で
食べる野分の夜
西島建男歌集2
西島建男歌集2
51 小さな位牌あわてて買い
君の名は「釈尼貞華」
あなたはどなた
52 君の弾くピアノ曲を聴きたいな
はやく帰ってきて
調律も終えたし
53 中華街肉まんの乳房に
炒飯の油はぜ
口づけかわす
54 握手会アイドルに力士
エモるねイケメンイケジョ
イケボのカミの手
55 看護師の乳房の張りを
見つめつつ
しばし麻酔の夢と戯れん
57 目覚めればチューブ6本
甲虫に変身し
標本になりぬ
58 肝臓の灰白に光る切除した
ガンを嫁に見せ
医師は笑みぬ
59 治療室夜半に
チューブ引き抜きし老人は
手足しばられうめけり
60 点滴の落ちる音さえ五七音
痛みは歌よ
看護師は芙蓉
61 亡き妻に恋文来たり
絵友達
紫陽花妖しく香煙なまめかし
62 キュウリの実
キュウキュウリリかめば
失恋の朝の夏風重し
63 突然に若き女性に口吸われ
おしゃべり断たれ
背骨水仙に
64 きみの舌はましょまろのよう
なめらかに背中のホクロ吸えば
西瓜の種飛ぶ
65 大鷲に鉤爪で掴まれ
翼鳴り山並みの谷を
飛び落とされぬ
66 ビロードの川うねりゆき
氷の滝を滑り降り
海溝の底裂け目に沈みぬ
西島建男歌集1
テイ挽歌 西島建男歌集1
1 白骨を砕きて散りぬ
かよわくも妻の小指の
灰さらさらと
2 死なんとし宇治川の淵
さまよえば大文字の火
あかあかと燃ゆ
3 捨ててよと遺しし言葉
古い日記を土に埋めれば
蟻二匹這う
4 妻枕恋を忘れじ
長夜明け涙と添寝
夢でも会えず
5 仮の宿君の描きし
水彩画うつろわず光る
ひまわりの花
6 今も夢昔も夢と
朧夜に
帰らぬ君の衣いだきぬ
7 罪背負い
救いなき道一人ゆく
熟した梅の実ぽとりと落ちぬ
8 黒き蝶ハイビスカスに
涕泣し妻テイの魂
さまよい飛ぶ
9 宵闇の目黒川にも桜散り
みなもに浮かび
妻の髪にも
10 郡上の盆「春駒」踊れば
亡き人たち夜通し笑みて
輪を描きたり
11 心電の音切迫し
別れの挨拶涙一粒
頬流れ落つ
12 カルテ見て
誰にでもゴールありきと
つぶやく医師を我は憎みぬ
13 竿灯のゆらゆらゆれる提灯や
あるかあらぬかゆらめく
星月夜
14 死も楽し君の待つ場所
遅れずにレンゲツツジ咲く
霧深き朝に
15 我が心なぐさめかねつ
妻ひとり病院に置き去りし
木枯らし泣く夜
16 年老いて友も死にたえ
陽炎にそよぐ枝葉の
柏の木ひとつ
17 いちょうの葉黄蝶が飛ぶよう
大地覆い忘れた記憶
胃腸切り裂く
18 携帯の君の番号消しきれず
かけてはすぐ切る
秋の夕暮
19 秋風や病癒えんと欲す日々
寒し老馬とぼとぼ
すすき原歩みぬ
20 しあわせの季節去りゆき
みな笑う家族写真に
ほこり降りゆく
21 裏切りを知りもせず
逝きし君への悔い
闇夜の霧笛に臓腑震え
22 失くしたと尋ね歩きし
妻の写真お盆に見つかり
涙留まらず
23 チベットで八千個の星
輝けり我頭上には
かそけき光のみ
24 川白く「サヨナラダケガ人生ダ」
井伏鱒二の
竿のヤマメ逃れ
25 膨れる海なみだ
ただよいただよいて
アメリカの西の浜辺抱きしめり
26 コピペ恥じ交差点渡れば
あれれれれコピペの私と
鉢合わせになりぬ
27 こがらしの愛憎の棘鋭く
貫きみどりの沈黙
かたまり沈む
28 養子にと願いし人に断りし夜
ひっぱる母の手熱し
29 死に際に会いたしと願う養子
望んだ人の手冷たく哀し
30 泡だて器ピンクとホワイト
ぐるぐると怒れる頭
ヒヤシンスなだめり
31 帰国の朝ムクゲの唇とき髪の
韓国夫人に
別れのキスせん
32 胎内で無垢の希望のまま
死にし子薄き骨埋めれば
モクレン薫りぬ
33 冬の朝アトピーで悶える息子
僧になりたしと
父「空」になりぬ
34 狂う母包丁片手に死なせてと
腹に抱きつく
我の肉のうずき悲し
35 狂う母電話線を引きちぎり
通話を遮断し
ころげまろびぬ
36 伊豆の海大漁旗の船一隻
米軍機が撃ち
蜜柑の黄溶けぬ
37 米特使の車の屋根踏み
反安保叫びし
叔父の亡霊今懐かしき
38 心臓を移植させてよ
サーフィンの美女の
乳房の谷滑べりたし
39 白砂に十六夜月たゆたいて
石庭の岩
宙に浮かびぬ
40 苔庭の三日月照れば
青き蟻無数にうごめき
地下に潜りぬ
41 朝焼けにベイブリッジの灯
けだるく海はあくびし
桟橋は背伸びす
42 春西日ベイブリッジを染め
カモメもだえ
観覧車笑うも白雲動かず
43 潮風の外人墓地に夕やみにじみて
ブルーの子音
かすかにきこえぬ
43 海の青染まらず
白き巨船の胴
船出をいやがり埠頭にまどろむ
44 新緑の悲しみ色の
接着剤岩なだれではがれ
富士山よ泣け
45 富士山と一緒に入る露天風呂
涙は溶剤
月光の泡よ飛べ
46 いのししの皮剥がれ落ち
青き胴重力脱し
竹林の小径から飛ぶ
47 孤立死を恐れる老人
昼カラで桜坂歌い
白い一毛散りぬ
48 洞窟の奥から名呼ぶ声あり
覚めれば腸のかけら
地下に落ち行く
49 砂時計砂漠を嫌うナルシスよ
時間を恋し
ぐにゃりと曲がる
50 放射線わが身貫ぬき
修羅の影
黒き穴から這い出て笑う